column
コンシエルジュの閑話休題

【 第1話 | 2014.6.19 】

溜まりに溜まった21年分

『立てたら、買うぞ』

そう思ってやってきたのは、神田のヴィクトリア。

2年前の冬、生まれて初めてアイススケートをやってみた時のこと。滑れないどころか、立つことすらできず、リンクの柵からまったく離れられなかった。そして今、履いているのはスキーブーツのようにプラスチックに覆われた真っ黒なインラインスケートブーツ。おそるおそる腰を上げ、立ち上がろうとすると……、た、立てた!!

「初めて履いてすぐに立てる人って、なかなかいないんですよ〜」

運動音痴の自分にそんなことを言うのだから、店員の言葉はお世辞以外何物でもないのだけれど、でもそんなことはこの際どうでもよくて、スケートブーツを履いて、何にもつかまらずに立てたことの方が何十倍も重要なのだ。しかも予想していたよりずっと安定感があって、これなら自分ひとりでもどうにか滑れそうな気持ちが強まった。

10分後、ブーツとプロテクターが入った袋を手に、気分を高揚させたままお店を出て行った。

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冒頭から、すみません。

別に小説が書きたいわけではなく、これは当サイトの管理人が高校生だった1993年7月3日の実際の話。

今から思えば、アイスのリンクで借りたスケートブーツは、今の自分でも履きたくないくらい足首周りがふにゃふにゃで、当然スケートの経験がない上に、普通に運動音痴の自分には滑るどころか立てるはずがない代物。それが、シェルもカフもプラスチック製でガチっと支えてくれる硬いハードブーツを履いたんだから、立てない訳がない。そして、元々立てたら買うつもりだった上に、店員も軽くおだてるし、当時のコーラのCM(http://youtu.be/rOT24fOKKig)でかっこ良く滑るイメージがあるんだから、それはもう買っちゃうよね。(笑

ちなみにその時に購入したのが、Rollerblade社の“Lightning”。かろうじてカフにバックルは付いていたものの(前のモデルはシューレースだけで締めるタイプだった)、インナーブーツはペラペラで、ウィールはほぼコアなし、ベアリングはABEC表記すらない、つまりABEC1以下のグリスたっぷりの安物で、これらで作られていた昔の初心者向けブーツ。これが3万円以上もしたんだよね、今では考えらないけれど。

それから毎日のように葛西臨海公園の中を滑り回ってるうちに仲間ができ、スラロームなどを教えてもらったりした。大学生になると、昼は“Tarmac CE”を履き、夜は“Dare To Air”を見る日々を送ったり、平日は夜な夜なアキバの駅前広場で、休日は東京ドームや小山ゆうえんちのリンクでホッケーをするようになったり。社会人になってUniverskateのサイトと出会ってからは、昼も夜も平日も休日もバリバリのスラローム漬けの毎日に。そしてふと気がついたら、フレームやベアリングの品質を確かめつつ、ベビーカーを押しながらクルージングの楽しむという、すっかりご隠居状態に……。

でも、ブーツを履くと気分が上がるのは今も昔も同じ!

1993年夏からの月日は、ジャンル関係なくインラインスケートで遊び、たくさんの経験をさせてもらった21年間、あるいは様々なギアを試してその力を借りたり、自分のスタイルやコツを模索しながら練習した21年間だった。中でもスラローム、ホッケー、スピードの3ジャンルで賞状やメダルをもらえたのはどれも嬉しい出来事だったけれど、そこに至るまで経験した苦いことや楽しいことの全てが、今の自分を作ってくれたもののはず。

こんな風に今まではほとんど溜まっていく一方だった経験や思いを、このコラムにこれから少しずつ書いていきたいと思います!

《高田健一》

ライター