column
コンシエルジュの閑話休題

【 第10話 | 2014.8.21 】

乗る・踏む・運ぶ・滑らせる

僕自身が、ちょっと真剣にスラロームする時や気持よくクルージングをする時など、滑りながら気にしていることある。 それは『乗る』『踏む』『運ぶ』『滑らせる』の4つの操作感。

回転しているウィールに乗って体を運んでもらうような感覚で滑るのではなく、自分の意志でウィールを転がして滑る、あるいはウィールの転がりをコントロールするように滑るための、4つの感覚的な動作と考えている。

最初の『乗る』は、当コラムの第2話第3話でも詳しく書いている通り、フレームやウィールに真上から的確に荷重や加重して、無駄のなく力を掛けて滑っている状態こと。俗に『スケートに乗る』と言われる、初心者的な滑りから脱するためには必須スキル。

『踏む』というのは、いろいろ難しい。そもそもアグレッシブスケーター以外は意識することはないのかもしれない。

例えば、ランプなどで上に高く上がるための力強い『踏む』もあれば、蹴らないまでも軽く勢いを付けるための『踏む』や、加速している勢いを相殺して±0にするための柔らかい(膝と足首を柔らかくした)『踏む』もある。ただ共通なのは、膝を使って一点に対して的確に必要な分だけの力を加えるということ。つまりは踏めるようになるということは、足裏のフレームやウィールにもピンポイントで荷重&加重ができるようになるということ。

当然と言えば当然なのだけれど、この『踏む』動作をするためには、スケートに『乗る』ことができている必要がある。

『運ぶ』は、文字通り足を運ぶこと。そしてそれに伴って自分の体も運ぶ。スケーティングをするには当たり前の動作だが、この動きだけを抜き出して試してみると、意外と難しかったりする。

例えば蹴って滑るのではなく、ブーツを体の前あるいは後ろにウィールを転がしながら、歩幅分しか進まないようにする。しっかりと左右の足への荷重を繰り返しながら、一歩一歩、足を地面に置いた後にしっかり『踏む』ことができないと、歩くような足運びができないはず。

当たり前だけれど、足を運ぶということは、同時に上半身も運んでいる。左右交互に踏みながら足運びをすることは、荷重の移動、つまり重心移動も行っているのだ。スムーズな重心移動ができないと、スムーズに足を前に出して進めない。

そのような訳で正確な『運ぶ』動作が体に染み込むと、下半身と上半身を連動させてなめらかに滑ることができるようになっているはずである。滑走中に上半身と下半身がバラバラの動きになってしまう人は、ここを見直すと改善されるだろう。

最後の『滑らせる』は、『乗る』『踏む』をふまえた上で、『運ぶ』を心掛けながら蹴って滑っていくのだが、ウィールを自分の意志で転がしているような気持ちで滑る。一見、普通に滑っているだけのように見えるけれど、回転しているウィールの上に乗って滑っていくのではなく、自分の意志でウィールを回転させているように滑るのだ。

単なる意識や心持ちの問題かもしれないが、これを意識して滑っているかどうかは、この感覚を分かっている人が見れば、だいたい分かる。遅いスピードで滑っていてもブーツに滑らされている人もいるし、高速でスラロームしていてもウィールの回転を自分のコントロール下に置いて滑っている人もいる。

この4つの動作は、普通に技の習得を目指してスラロームの練習をしているだけでは、身に付けるのが難しい。というより、ほぼ無理だろう。

そこで僕の講習会では、『乗る』は“ゆるゆる”と“ハッシュ”で、『踏む』は“ウォーキング”で、『運ぶ』は“ウォーキング”と“ハッシュ”で、『滑らせる』は“ハッシュ”で、といった風に、各基礎スケーティングのメニューで練習するようにしている。この“ゆるゆる”と“ハッシュ”と“ウォーキング”の3メニューは、もちろん自分自身が練習してきたもの。そしてこれらを練習してきたからこそ、今のなめらかな滑りができるようになったと考えている。

『乗る』『踏む』『運ぶ』『滑らせる』、この4つの操作感に関してスケーター仲間と突っ込んで話し合ったことはほとんどない。だからもしかしたら、ここまで細かいことを気にしながら滑っている人はいないかもしれないし、また高速スラロームを好む人には関係のない内容かもしれない。

しかし、なめらかな滑りを目指したい人、ウィールの回転を感じながら滑りたい人は、ぜひとも気に留めて滑って欲しい。すぐには効果は出ないけれど、きっと半年後、1年後には滑りの何かが変わっているはずだ。

《高田健一》

ライター