column
コンシエルジュの閑話休題

【 第11話 | 2014.9.3 】

なめらか&軽やか 応用の2輪目乗り編

突然ですが、猫や犬の後足の、人間の膝に当たる部分が逆に曲がるようになっているのは、なぜでしょうか?

実は、あの部分は膝ではなく『かかと』。つまり動物たちは、常にかかとを浮かせて歩いているのです。

さて話は人間へ。

テニス、バレーボール、野球の守備の人とか、待ちの姿勢だけれどすぐに動きたい場合は、つま先に体重を掛けてかかとを浮かし気味で構えている。インラインホッケーも同じで、低速で両足接地している時はつま先荷重で、すぐに次の展開に反応できるようにしている。

つまり動物も人間も同じで、つま先に乗っているほうが機敏に動けると言うこと。

今から9年前の秋、この動物と人のつま先荷重の話を、基礎練の鬼とリスペクトしているインラインスケーターに教えてもらった。さらに続けて「スラロームでも同じことをやってみれば?」と。

『確かにホッケーでもつま先荷重で滑ることもあるのだから、これをスラロームでも試してみる価値はあるかも』と考え、その直後から、スラロームのフロント技で滑る時もつま先側に乗って滑ることをいろいろ試し始め……。

それ以来スピードを競ったり、まったり滑る時を除いて、ロッカリングのセッティングでスラロームする時は基本的に、足裏の人差し指や中指の付け根付近に荷重して、前から1輪目が通常の1・2輪目、2輪目が通常の3・4輪目のような気持ちで乗って滑るようにしている。つまりこれが“2輪目乗り”。

例えば飛燕を滑る時、前向きの時も後向きの時もずっと2輪目に乗っている。フロントクロスとバッククロスで『かかと→つま先』や『つま先→かかと』というように乗り位置を変えると、その度に若干の時間のロスが生まれやすくなる。しかし、常に胸側の足の2輪目に乗っていればそういったこともなく、足裏の荷重位置に気を回さずに、楽に流していける。

それから、2輪目に乗っていると、何かと膝を柔らかく使えるようになると思うのだ。

膝を柔らかく使えるから、第10話での『踏む』に当たる動作がとても自然にできる。さらに滑る軌道の微調整も利かせやすくなり、“ハッシュ”で内足にガッツリ荷重した時も、漕ぎながら円のサイズを修正しやすい。スラロームなら、パイロンキックを避けるための瞬間的なライン取りの修正などにも反応しやすい。

“2輪目乗り”の練習を始めた半年後の光が丘カップのオープンAで優勝したのも、この乗り方のおかげだと思っている。この時のルーティンは、スピードは抑えつつ後半に3連続回転技を入れたもの。当時は高速ルーティン全盛期だったので、『速くなくても魅せるルーティンは作れるぞ』というのを大会の場で提示したかった。そしてそのために、『バックワンフット→テイルターン→連続ワンフットスピン』というコンビネーションを入れたのだけれど、これは大きな重心移動の連続となり、左右の2輪目を乗り継いでいく感覚で滑ることになった。また、このルーティンを8本滑ってパイロンキックは1個だったのも、“2輪目乗り”で瞬時の軌道修正ができたおかげだった。

でもこの大会の時点では、まだ滑りに硬さが感じられ、まだまだ今のなめらかさには程遠かった。

自分でも滑りがはっきり変わったと認識したのは、優勝したさらに1年後。『loop』という動画を撮影した時のことだった。

前年、ライダーとして強制的に履かされ続けた1サイズ大きいFRで“2輪目乗り”を続けたので、大リーグ強制ギブス的な効果が出たのかも!?

兎にも角にも、地味に“2輪目乗り”を練習し続けた結果、しなやかでなめらかな滑りを手に入れることができたのだった。

ただし、なめらかな滑りをしたくて練習していた訳でなく、自分の中で『これは悪くないぞ』という感覚があり、それを信じて練習し続けていただけで、元々提案された時はどういう滑りになるという話はなかった。と言うよりも、2人とも知る由もない未知のゾーンだから、分かる由もなかったのだが。

と、まあ、そんなこんなで、今もスラロームをする時は、2輪目に乗ることを意識して滑るようにしている。

ところが、この“2輪目乗り”が一般的かというと、そうではないはず。少なくとも僕自身は、他のスケーターから、常に2輪目に乗って滑っているという話を聞いたことがない。

そのため、高速スラロームが好きな人や細かいことを気にしない人には、まったく意味のないことなのかも知れない。

しかし、なめらかに滑りたい人や自分の自分のスタイルを作っていきたい人は、重心移動に気を遣いながら、ぜひこの“2輪目乗り”を気長に練習して欲しい。ただし、基礎の滑りを一通り習得して、『スケートに乗る』感覚も身に付けてから始めた方が良い。『スケートに乗る』感覚は足裏全体で感じ取れるが、この『2輪目乗り』は足裏のかなり狭い部分で『スケートに乗る』ものだからだ。

ある程度滑れる人でも、練習を始めた当初は試行錯誤の連続になるかも知れないが、きっといつの間にかなめらかな滑り方になっているはずだ。

《高田健一》

ライター