column
コンシエルジュの閑話休題

【 第22話 | 2014.11.12 】

なめらか&軽やか ゆっくり大きく編

僕がなめらかさや軽さを意識して滑る時は決して速くない。それなりのスピード感はあるものの、人によってはゆったりしていると思うくらいの速度でスラロームをする。

しかし、スピードが遅くなればなるほど、滑りや技のごまかしが効かなくなる。言い換えると、ボロが出やすくなるのだ。

試しに、普段はスピードをつけてからパイロンに入るスラローム技を、できる限り低速でやってみると分かる。もしその技の習熟度が低かったら、ぎこちない滑りになってしまうだろう。

そう、スピードは一種の魔法なのである。

もちろんある一定の速度を超えてスラロームをするためには、また別の技術が必要になってくるのだが、心地良いスピードは技を完全にマスターしたかのような錯覚に陥らせるのだ。

話は変わってプロ野球。

今期で退任するソフトバンクの秋山監督は選手時代、練習の時にできるだけゆっくり素振りをしていたという。普通の素振りもするし、当然バッターボックスに立てばフルスイングする。しかし練習メニューには遅い素振りも取り入れていた。その理由は、バットをゆっくり振ることによって、スイングの悪いところがあぶり出されるから。

これはインラインスケートでも同じ。ゆっくり滑ると、自分の滑りの弱点が浮かび上がってくる。

スピードがついていると、フォームやバランスが多少崩れていても、慣性の力によってそのまま滑りきれてしまう。自転車でスピードを出して走っていると倒れる心配はないが、止まりそうなくらいのスピードになると、荷重やバランスが的確でないとぐらぐらしてくるのと同じだ。ところがゆっくり滑ると、その滑りの全てが丸裸になってしまうのだ。

さらに動作の一つ一つが小さくなっていることがある。しかもスラローム技を速くやろうとすると、どうしても動きが小さくなりやすい。この場合もいろいろとごまかしが効いてしまい、それなりに滑れてしまったりする。そこで動きを大きくしてみるのだ。すると、動きが小さいことで適当になっていた部分も見えてくる。

こうやってゆっくり大きく滑ることによって、浮き彫りになった悪い箇所を丁寧に修正していくと、技の完成度が上がり、滑りから雑さが抜けていくはずだ。

繰り返しになるが、ここまで書いてきたように『速く小さく』滑ってしまうと適当でもそれなりにできてしまう。しかし本当にその技を習得したと言えるのは、『ゆっくり大きく』滑った時でも、きれいになめらかにできるようになってからだと思っている。

いつからかは忘れたけれど、以前から自分はゆっくり大きく滑る練習もしてきたし、事あるごとに人にも勧めている。もちろん、今でも自分の滑りが甘くなっていると感じたり、納得のいく滑りができない時は、ゆっくり大きく滑って荷重ポイントや重心移動などを確認&修正している。

当たり前にことだけれど、ゆったりと気持ち良さそうに滑る時に動作が小さければ見栄えがしないし、そういった滑りができるようにと、ある時から習得済みの全ての技を改めてゆっくり大きく練習し直すくらいなら、始めからそういった練習しておいた方が早い。それだけでなく、自分が良く知っているキレのある滑りをする高速スタイルのスラローマーも、きれいゆっくり大きく滑ることができる。つまりは、どんなスタイルを目指すにしても、ゆっくり大きく滑った時のフォームが、その人自身の滑りの『味』になっていくということなのだろう。

このような訳で、なめらか&軽やかに滑るためにはもちろんのこと、目指すスタイルに関係なく滑り自体に深みを出したいのなら、ぜひゆっくりと大きな動きで技の練習していくことをオススメしたい。

《高田健一》

ライター