column
コンシエルジュの閑話休題

【 第48話 | 2015.6.18 】

『できた』と『できる』、教え方のスタンス《1》

僕は6年前から基礎スケーティングやスラロームの講習会や個人レッスンを行ってきました。

当サイト内にある8種類の8の字、通称『ハッシュ』(詳細は第8話を参照)も僕が講習会を始めた当初からの練習メニューの1つ。 ところがこのハッシュ、1〜2回やっただけではうまくできずに効果を実感できないことも多い。それなのになぜ続けているのかというと、地道に練習を続けてしっかりできるようになると、確実に基礎スケーティングの実力が上がるからです。そして基礎スケーティングのレベルが上がると滑り全体の幅が広がり、スラロームなどの新しい技の習得がスムーズになり、闇雲に練習する無駄な時間が省けるのです。

一事が万事この調子で、基礎的な動きを練習してから、その上に乗っかる応用技を練習していく、これが僕が教える時の基本的なスタンスとなっています。

このような訳で、僕はINLINESKATEjp講習会東京ドームローラースケートアリーナのスクールなどでスラロームを教える時、基本的に『すぐにできる!』的なキャッチーな内容はやりません。

また、何か教えて欲しい技があったとしても、その人の技術レベルを知らない場合は、いきなりその技をやることはなく、そのベースとなる動きから滑ってもらい、滑りの習熟度を確認させてもらいます。時には、バッククロスの習得を希望していても、フロントパラレルまで戻って練習してもらうこともあります。

それはなぜか?

無理して1〜2回『できた!』と体験してもらうのではなく、『できるようになった!』と実感を伴って確実に体得して欲しいからです。

講習中に『できた!』と喜んでもらうのは、そう難しいことではありません。しかし、講習会で数回『できた』としても、実は講師が無理して足の軌跡をなぞらせただけだったら? 当然講師がいなくなるとできなくなります。また、がんばって練習すればきっとできるようになる、という希望を持たせることには有用ですが、それ以外の意味は……。そうではなく、僕は講習会中にできたことは、講習会後も『できる』状態にしたいと思っています。

スラロームの技は、構成する動きやベースの技の組み合わせなので、当然そういった構成要素が全てできていると新しい技が習得しやすい。ところが構成技の中に未習得のものや不完全のものがあると、やりたい技がなかなか身に付かない。たまたま『できた』としても、それは偶然であって、もう一度やろうとしてもできなかったりする。

そこで僕は構成要素の最下層から潰し込んでいき、最終的に習得したい技を繰り返し『できる』ように講習を行うことを心掛けています。だからひとたび『乗れていない』と判断すると、“フロントパラレル”や“クロスオーバー”まで戻って練習してもらうことがあるのです。

蛇足だけれど、僕は運動神経が良い方ではありません。というより、下から数えた方が圧倒的に早いくらい、確実に悪い。

だから、インラインスケートの新しい技を覚える時は人の何倍も滑りました。そして押さえるべきポイントを見つけ出し、それを反復練習で体に馴染ませる。そうやって探し出したポイントは足さばきではなく、得てして上半身や腰の使い方だったりする。そして、いろいろと試行錯誤を繰り返しながら練習してきたので、技をマスターする上での引き出しが普通の人より増えていくことに。

そして現在教える時は、技の構成要素と併せて、これらの技のポイントをいくつかの引き出しを開けながら解説しているのだけれど、これが理屈を理解してから体を動かそうとする大人たちにすこぶる評判が良かったりも。(笑

さて次回は、実際どういう風に技を分析して教えているかのかを、具体例を出していきたいと思います!

《高田健一》

ライター